M.5 山家暮らし(やまがぐらし) 

第一京浜国道から山手通りに曲がった辺りから、雪が降り始めた。
7時から新宿のライブハウス、その前に渋谷でZ出版、編集のFさんとの打ち合わせに2時間・・・その日のスケジュールを確認しながら、私は、東海禅寺のある、この辺りを通る度に、何故か何時も想い浮かぶ想いにかられ、「沢庵禅師の墓にお参りしなきゃ・・・」とつぶやいていた。
目黒川の上を、新幹線、東海道線、山手線、京浜東北線や貨物専用のレールが走る。
そのコンクリートガードの暗い影の中に、ひらひら舞う雪を見た。疾走する東海道新幹線の列車が巻き上げる風に、雪がクルクルしていた。
東京の雪は、本当に珍しいから、数少なく経験した雪景色を直ぐ想像してしまう。小学2年生の頃に30cm以上積もったことがあり、父が竹を割り板に打ち付けてスキーを作ってくれた年。庭に滑り斜面をつくり近所の子等と交代でキャーキャーとハシャイダ大雪の思い出。何年かに一度白い世界に変貌し、その中の出来事が次々に現れる。

その時、車のラジオから羽田空港の出発・到着便の状況インフォメーション、女性アナの声が流れる。「・・・羽田空港の滑走路では、雪が降り始め・・・今夜の出発便は遅れそうです」

山家暮らしの構想は、この東京の雪から始まった。

  ひらひら小雪が舞っている
  笛や鼓(つづみ)は ないけれど

二行のこのフレーズは山手通りを走りながら生まれたが、結局は4番に移った。

あの頃、テキストとして聴いていたシャルル・アズナブールや、ジルベール・ベコーの早口のフレージングに刺激を受け、長期間、日本語の話し言葉のリズムを生かそうと意識していたのが、この楽曲で表現できるような興奮を感じながら、その日の仕事を終えた深夜には、その年の夏、初の岩手体験から、四季の移り変わりに広がり、巡る春夏秋冬をそれぞれ四行構成にするために縁語かかりことばを意識し、枕詞まで勉強していたのが、表面に出てきた。

そして16ビートも意識したり、スウィングを内包した8ビートで進行。
  いつまでも眠い 春の朝
  臥所(ふしど)の中で 思い出す
  凍て解け(いてどけ)の水が きらきらと
  陽炎(かげろう)と遊ぶ ねこやなぎ

この曲の完成も、長い時の流れが必要だったのです。一回りの四季の移ろぎではなく、何十年の中のとびとび春夏秋冬になった。
東京を離れて、山家で暮らせる機会が来るとは、まったく想像もしなかったが、こうして岩手の自然を身近に感じるカントリーライフは身体も心も満足し新たなライフスタイルへと巡っている。


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